Winkなたわごと

17.息子、左手で受験 2006年春
2月27日(月)
 息子が、右手親指を骨折し、手術を受けてから1週間が経った。
 学校へ行く前に病院の診察があるので、道路の渋滞を避けるため、早朝に出発した。
 病院へは、一番乗りだった。

 息子とドライブするのは、久しぶりだ。

 親の手違いで、滑り止めの高校への入学手続きができていないので、
とにかく、公立高校の受験を無事に終えなければいけない。
 息子に、これ以上、何かあってはいけないので、安全を考えて、軽自動車ではなく、頑丈な普通自動車で移動することにした。

 病院の診察、レントゲンの結果、術後の経過は良好とのことだが、右手のギプス、針金は、まだ外れない。

 息子は、夕方、中学校のお別れ会の練習をすると言って出かけていった。
 友人のギターに合わせて、息子が歌うらしい。
 あんなに勢いよく励んでいた受験勉強が、ぷつりと、とだえた。
 右手が使えなくても、単語のひとつぐらい覚えられるだろうに・・・
 歴史の年号を暗記するとか・・・と、そんなことを私は、思ったりもするが、
 一番つらいはずの息子本人は、いらいらしたり、腐ったりせずに、明るく過ごしている。

 突然のアクシデントに遭遇し、思い通りには行かなくなったであろうに、
 そんな息子の周りには、支えてくれる先生や、友人がたくさん居てくれるのだろう。
 息子が、明るく過ごしていてくれるのは、何よりの救いだ。
 歌の練習を友人と一緒にして、残り少ない中学生活を楽しく過ごしてくれるのも、良いことだ。
 なにより、右手骨折の事実を忘れていられる時間があるのは、いいことかもしれない。

3月6日(月)
 息子、右手親指の手術から2週間が経過。
 ギプスを外してもらえたが、副木で固定。
 ギプスのときと、何も状況は変っていない。
 間近に迫る高校受験を案じて、私が、「右手に鉛筆を固定して、なんとか右手で字を書くことはできない?」と、息子に聞くと、
 「無理!」と、即答だった。
 手術を受けた次の日から、左手で書く練習を始めた息子の対応は、適切だったことをつくづく感じた。
 今できることを、精一杯やろうとする息子に対し、私は、なんともまあ、情けない親だ。

3月7日(火)
 中学校の卒業式を無事に終えた。
 息子は、友達と、食事に言ったり、カラオケに行ったりしている。
 右手が不自由ながらも、楽しく過ごしてくれているのは、ありがたいが、とにかく受験会場には無事に行ってもらわないと困るのだ。
 これ以上のアクシデントは、絶対に避けなければいけないのだ。
 たのむから、息子よ、無事に帰ってきておくれ。
 お願いだから、右手以外は健康な状態で、試験会場に行っておくれ。

3月9日(木)
 N高校入試(学力検査)
 ようやく、この日がやってきた。
 まずは、ひとつ終了。
 左手での受験、英語を書くのと、数学の計算が左手では思うようにできなかったとのこと。

3月10日(金)
 N高校入試(面接)
 無事終了。

3月11日(土)
 傷口の消毒に、病院へ行く。
 右手には、針金が入ったままで、副木で固定。

3月13日(月)
 I南高校入試(学力検査)
 おかげさまで、無事に試験会場に送り込むことができた。

「左手で受験した人は、全国に何人ぐらいいるのだろう?」と、息子は言う。
「県内に、一人いるかいないかぐらいかなあ?」と、私は、答えた。
 風邪もひかず、ここまで来ることができて、本当に良かった。
 明日の面接を、無事に終えれば、なんとか高校へ滑り込める可能性は残っている。

3月14日(火)
 I南高校入試(面接)
 無事終了。
 今日、この日に、I南高校にたどり着けたことを本当に嬉しい。
 息子を、受験会場に車で送っていったが、帰りは歩いて帰ってきた。
 右手骨折以来、「自転車は危ないので、乗らないで欲しい」という私の希望を受け入れてくれて、送り迎えをさせてもらってきた。
 とにかく無事に、公立高校の受験を済ませることができ、本当に良かった。
 目標を、次々と改めて、右手の骨折を乗り越えて・・・
 結果は、どうであれ、よく頑張った息子を誇りに思う。
 目標に定めた高校を受験できただけでも立派だ。
 合格できなかったら、また、そのときに次の進路を考えればいい。

3月15日(水)
 傷口の消毒のため、病院へ行く。

3月20日(月)
 針金を抜く。
 ようやく、副木もとれて、右手を徐々に使ってよいとのこと。
 息子、右手で「あ」を書き、左手で「あ」を書き、両方の「あ」を比べて微笑む。
 「左手、じょうずになったね」と、私も微笑んだ。
 針金が取れたからといっても、すぐ右手が使い物になるわけでもないようだ。

3月22日(水)
 合格発表
 第一希望のN高校は不合格だったが、第二希望のI南高校に合格できた。

 よかった。 ほんとによかった。

 右手の骨折がなければ、N高校だったのだろうか?
 私としては、I南高校の方が好きだ。
 息子も、きっとそう思っているに違いない。

 I南高校に感謝!

 右手の骨折、私立の入学手続き期限切れ、左手の受験・・・

 ああ、よかった。合格できて、ほんとによかった。

3月25日(土)
 消毒のため病院へ行く。

3月27日(月)
 レントゲン、経過良好。
 傷口、快復良好。
 今後は、近所の病院でリハビリに通えば良いとのこと。

 市内を流れる五条川沿いの桜は、咲き始めていた。

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