Winkなたわごと

16.息子、右手骨折 2006年 2月〜
2月19日(日)
 夕方、ふと、「T学園の入学金、振り込んでくれたよね?」と、夫に尋ねると、
「明日、銀行に行ってくるわあ」と、夫が言う。
(うっそ〜〜〜!マジ? 期限切れだよ)

 夜、8時半、息子がフットサルから帰ってきた。
 息子は、中学のサッカー部の有志でフットサルチームに所属していて、大人たちのリーグ戦に参加している。
 「受験勉強の気分転換になるから」と、出かけていったのだ。
 息子は、「試合中に人と接触して、指をひねった」と、早めの帰宅だった。
 明日の朝、医者へ連れて行こう。

2月20日(月)
 息子の右手親指は、「骨折」と、診断された。
 手術が必要とのことで、専門医を紹介され、車で移動。
 「受験生なんです。3月9日の受験には、間に合いますか?治りますか?」と、不安を訴える私に、
 医者は、「ぎりぎり、なんとか間に合うかな」と、答え、緊急に針金を入れる手術をしてくれた。
 夫は、手術代を持って、駆けつけてくれた。

 滑り止めで受けたT学園は、入学を決定するならば、期限切れの入学金を受け取っても良いが、公立を受験予定なら、入学金を受け取れないとのことだった。
 滑り止めなしで、公立を受験するか、公立をあきらめて、T学園に決めてしまうかの選択を迫られた。そのうえ、こんなときに、右手骨折。
 頑張って受けてきたT学園が、滑り止めになっていないなんて、息子が可愛そうだ。
 親のミスで、なんともまあ、申し訳ない。
 息子には、プレッシャーになるのを避けて、今現在、入れる高校がどこにもないことは、隠しておくことにした。

 手術室から出てきた息子は、右手に石膏のギプスをはめていた。
 私の第一声は、「受験校、変更しようか?」だった。

 皮肉なことに、この日は、公立高校推薦入学の合格発表だった。
 A高校を推薦入試で受けていたら、合格通知を手にしていただろう。
病院からの帰り道、
 「成績が悪かった人が、サッカーをしたい一心で、勉学に励み、A高校に推薦入学しただけでも、じゅうぶん伝説の人だったのにね」と、私が言うと、「右手骨折で、もっとすごい伝説を残せるね」と、息子が笑った。

 2月21日(火)
 息子の残り少ない中学校の通学は、車で送り迎えをすることにした。
 朝は、靴下を履かせ、学ランを着るのを手伝い、風呂に入るときは、右手がぬれないようにビニール袋で包んだ。
 食事は、なるべく左手のスプーン、フォークで食べやすいメニューを考えた。
 右手が使えず、ただでさえイライラしてしまいそうだから、食べ物は、スムーズに摂取できるようにと、思ったからだ。
 息子は、受験校を変更する意志は、まったくなかった。
 「左手で字を書くから、大丈夫。左手で書いても、右手で書いても、脳みその実力は変らないよ。」と、息子は言った。
 そして、N高校受験を目指して、問題集に取り組んでいた息子が、突然、「あいうえお」と、ひらがなを書く練習を始めた。
 受験のために通っていた塾も、行く必要がなくなってしまった。「あいうえお」の練習ならば、家で十分できるからだ。
 腐ったりもせず、愚痴もこぼさず、「なかなかうまく書けるようになったよ」と、ミミズが這うような文字を自慢する息子を見て、胸がいっぱいになった。
 この子は、いつの間に、こんなに立派になったのだろう。
 何があっても、くじけることなく、現実を受け止めて、できることを精一杯やっていける。
 この先、何があっても、きっと大丈夫。

 この時期の、このアクシデントは、神様からのプレゼントだったのかもしれない。
 大きくなった息子の世話をやけるなんて、ありがたいことだ。
 まさか、こんな大きな足に靴下を履かせるなんて、思ってもみなかったよ。
 そして、何より嬉しいのは、どんなことがあっても、立派に乗り越えられる息子を見ることができたことだ。
 そして、そんな息子の世話をやき、息子を見ていられることを心から感謝。

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